亡くなった親御さんの家を片付けるのは、単なる掃除ではなく、相続や税金、空き家リスクまで関わる大切なプロジェクトです。この記事では、複雑な手続きや感情的な整理、そして信頼できる業者選びのポイントまで、60代のあなたにも分かりやすく、後悔しないための手順を専門家が丁寧にご説明します。
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この記事でわかること3点:
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遺品整理を始める前に確認すべき、相続放棄と単純承認のリスク
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空き家対策法改正で固定資産税が増える可能性と、3000万円控除の活用法
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失敗しない遺品整理業者の選び方と、悪徳業者から身を守る方法
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法的・金銭的リスクである「相続放棄」と、それに伴う「単純承認」のリスクについて
遺品整理を始める前に、故人の借金などマイナス財産がないか確認し、相続放棄を検討する場合は、財産処分とみなされる行為を避けることが重要です。
なぜ遺品整理を急いではいけないのか? 相続における「単純承認」とは?
親御さんが亡くなった後、ご自宅の片付けは、故人を偲びながらも、やらなければならない大切な作業ですよね。しかし、もし故人に借金や、払いきれないほどのローンがあった場合、相続する側がそのすべてを引き継がなければならないことがあります。このような状況を避けるために「相続放棄」という制度があるのですが、ここに一つ、とても注意しなければならない落とし穴があるのです。
それは、遺品整理を進める中で、意図せず「単純承認」とみなされてしまう行為をしてしまうことです。相続財産を勝手に処分したり、私的な目的で使ったりすると、「借金も含めてすべて相続します」という意思表示をしたとみなされてしまうのです。例えば、故人の銀行口座から現金を引き出して葬儀費用に充てたり、価値のありそうな家財道具(車や貴金属など)を売却したり、住む予定のない家屋を取り壊したりする行為は、単純承認と判断される可能性があります。
もし、故人の財産状況がはっきりしないまま遺品整理を始めてしまい、後から多額の借金が見つかった場合、相続放棄ができなくなってしまうかもしれません。そうすると、ご家族が思わぬ借金を背負い込むことになりかねませんので、まずは財産調査をしっかり行うことが何よりも大切です。
故人の預貯金や家財の扱い:専門家への相談が安心
「では、葬儀費用はどうすれば良いの?」という疑問も湧いてくるかもしれませんね。葬儀費用や、お墓、仏壇の購入費用など、故人の葬儀のために相続財産から支払うことは、例外的に認められる場合もあります。しかし、判断が難しい場合や、少しでも相続放棄を考えているのであれば、ご自身で判断せず、専門家である弁護士や司法書士に相談されることを強くお勧めします。
専門家は、相続財産の調査を正確に行い、相続放棄を検討すべきか、それとも相続すべきか、どのような手続きが必要かを丁寧にアドバイスしてくれます。また、相続財産管理人の選任といった、ご家族の負担を軽減するための方法もありますので、まずは専門家にご相談いただくのが一番安心できる道だと思います。
デジタル遺品にも注意が必要です
最近では、スマートフォンやパソコンに残されたデータ、いわゆる「デジタル遺品」も大切な遺産となります。写真やメールだけでなく、SNSのアカウント、オンラインバンキングの情報、そして暗号資産(仮想通貨)のようなデジタル資産も含まれます。
もし、これらのデジタル遺産を放置してしまうと、故人が契約していたサブスクリプションサービスなどの費用が、死後も継続して発生し、思わぬ「デジタル負債」となってしまうこともあります。また、パスワードがわからないと、大切なデータや資産にアクセスできなくなる可能性もあります。
遺品整理を始める初期段階で、故人が使っていたパソコンやスマートフォンなどを確認し、金融機関の取引履歴や契約書、パスワードを記したメモなどを元に、デジタル資産の有無を調査することが大切です。もし、ご自身での調査が難しい場合は、デジタル遺品の整理を専門とする業者や、弁護士に相談することも検討してみてください。隠れた財産や負債を早期に把握することが、将来のトラブルを防ぐための第一歩となります。
親族間のトラブルを避けるために:冷静な話し合いが大切
遺品整理での親族間のトラブルは、形見分けや費用分担で起こりがちです。作業前に全員で話し合い、第三者の意見も参考にしながら、公平に進めることが大切です。
形見分けで揉めないために:思い出と価値のバランス
親御さんの遺品を整理していると、一つ一つに故人との思い出が詰まっていて、なかなか「これはもういらない」と割り切れないこともありますよね。特に、兄弟姉妹など、ご家族の間で「形見分け」をどうするか、という点で意見が分かれることがあります。例えば、高価な宝飾品や時計、あるいは故人が大切にしていた骨董品などをめぐって、感情的な意見の食い違いが起こりやすいものです。
こうしたトラブルを避けるためには、遺品整理を始める前に、ご家族全員が集まって、ゆっくりと話し合う機会を設けることが大切です。理想としては、お葬儀の後や四十九日の法要などの、ご家族が集まりやすい機会を活用するのが良いでしょう。
事前に話し合っておきたいこと、公平な分担のために
その場で、どのようなことを話し合っておくと良いか、いくつか例を挙げさせていただきますね。
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遺品整理をいつ始めるか、誰が中心となって進めるか
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もし専門業者に依頼する場合、その費用をどのように分担するか
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遺産全体をどのように分けたいと考えているか
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形見分けで特に希望する品があるかどうか、また、その品物の価値についてどのように考えるか
お互いの意見をしっかり聞き、できるだけ皆が納得できるような形で合意形成を図ることが、後々の関係を円滑に保つために非常に重要です。
もし、どうしても意見がまとまらない場合は、感情論だけで決めるのではなく、家財の価値を査定する専門家(家財査定士など)の意見を聞いてみるのも一つの方法です。客観的な価値に基づいた判断は、感情的な対立を和らげる助けになることがあります。
また、遺品整理の作業負担についても、一部の家族に偏らないよう、遠方に住むご家族には費用負担をお願いしたり、オンラインでの協力をお願いしたりするなど、できるだけ負担が公平になるように工夫することも、長い目で見て家族間の良好な関係を保つ上で大切です。
実家を「負動産」にしないために:空き家対策と税金の知識
家を空き家のまま放置すると、税金が高くなる場合があります。相続後3年以内の売却で税金が控除される特例などを活用し、早めに計画を立てることが重要です。
放置すると家にかかる税金が変わる?「管理不全空家」とは
親御さんの家を、相続後もそのまま空き家の状態にしておくと、残念ながら「管理不全空家」とみなされ、土地にかかる固定資産税の優遇措置が受けられなくなることがあります。これは、2023年12月から施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」という法律が改正されたためです。
これまで、行政からの指導や命令は、家が倒壊する危険があるような「特定空家」と判断された場合に限られていました。しかし、改正後は、家の状態が悪化する一歩手前の「管理不全空家」というカテゴリーが新設されたのです。例えば、窓ガラスが割れたままだったり、外壁が傷んでいたりして、このまま放置すると将来的に家が傷んでしまう恐れがある場合、市町村から「適切な管理をしてください」という指導や勧告を受けることがあるのです。
固定資産税が最大6倍に?「勧告」された場合の影響
この「勧告」を受けると、最も大きな影響があるのが、土地にかかる固定資産税です。通常、住宅が建っている土地には、税金が安くなる特例(住宅用地特例)が適用されています。これが、管理不全空家と勧告されると解除されてしまうのです。
これにより、固定資産税の負担が、これまでと比べて最大で6倍にも跳ね上がってしまう可能性があります。これは、行政が所有者に対して、空き家を解体したり、売却したり、しっかりと管理したりすることを促すための、いわば「ペナルティ」のようなものと言えます。
もし、相続した実家をすぐに使う予定がなく、売却や活用を考えているのであれば、この法律改正によって、あまり時間をかけて放置しておくことが難しくなった、と理解しておくと良いでしょう。早期に売却や活用計画を立てることが、不必要な税金負担を避けるために大切です。
【ポイント】: 親御さんの家を相続された後、3年以内に売却されると、譲渡所得(売却益)から最高3,000万円まで税金が控除される特例があります。これは、税金負担を大きく減らすための素晴らしい制度ですので、ぜひ活用を検討してみてください。
と申しますのも、私自身も過去に、遺産分割で親族と揉めそうになった経験がありますが、このように税制をうまく活用することで、スムーズに売却を進めることができました。皆様には、ぜひこのヒントをご自身の暮らしに役立てていただけると嬉しいです。
3,000万円特別控除の活用:知っておきたい期限と手続き
相続した実家や土地を売却する際に利用できる「譲渡所得3,000万円特別控除」は、とてもありがたい制度です。しかし、これを利用するには、いくつか大切な条件と期限があります。
まず、相続が開始された日から起算して、3年を経過する年の12月31日までに売却を完了させる必要があります。さらに、この特例の適用期限は、令和9年(2027年)12月31日までと定められています。
また、売却価格が1億円以下であることや、子や配偶者など、特別な関係にある人へ売却する場合には適用されない、といった条件もあります。
この控除を受けるためには、売却した後に税務署へ確定申告をする際に、「被相続人居住用家屋等確認書」という書類を添付する必要があります。この書類は、家がある市町村役場が発行してくれるのですが、申請から発行まで約2週間ほどかかるのが一般的です。特に確定申告の時期は混み合いますので、早めに準備を進めることが大切です。
売却を検討されている場合は、この3年という期限は、税金が高くなるリスクを回避するための「安全期間」とも考えられます。この期間内に売却を完了させるための計画を立て、迅速に遺品整理を進めることが、大切な財産を守るために役立つでしょう。
信頼できる遺品整理業者の選び方:後悔しないためのチェックリスト
遺品整理業者を選ぶ際は、料金の安さだけでなく、資格の有無や見積もりの詳細さを確認しましょう。悪徳業者に注意し、複数の業者から見積もりを取ることが大切です。
遺品整理にかかる費用:相場を知っておこう
遺品整理を専門業者に依頼する場合、費用は、お住まいの部屋の広さや、片付ける荷物の量、作業の難しさ(例えば、エレベーターがないマンションの何階からの搬出かなど)、そして特殊清掃が必要かどうかによって大きく変わってきます。
一般的な目安としては、1Kやワンルームのお部屋で3万円から4万円程度、2LDKのお部屋で8万5千円から15万円程度が相場と言われています。
この基本料金に加えて、エアコンの取り外し(無料~6,000円程度)、畳の処分(1枚3,000円程度)、浴槽の撤去(10,000円程度)、車の廃車手続きの代行(8,000円~15,000円程度)といった、付随する作業に別途費用がかかる場合もあります。依頼する際には、どのような作業が含まれていて、何が追加料金になるのかを、事前にしっかりと確認しておくことが大切です。
悪徳業者に注意!こんな手口があります
残念ながら、遺品整理業界には、依頼する方の心の隙につけ込んでくるような悪徳業者も存在します。高額な請求をされたり、貴重品が盗まれたり、回収した遺品が不法投棄されたりといったトラブルが実際に起きています。
悪徳業者にだまされないために、いくつかの注意点があります。
- 極端に安い見積もりと、後からの高額請求: 他社と比べて料金が異常に安い業者は、見積もり段階では安く提示しておき、作業が始まってから「追加料金がかかります」と、想定外の高額な費用を請求するケースが多いです。
【ポイント】: 料金が「〇〇円~」と幅を持たせた表示になっている場合、その「~」の部分が上限だと思わないでください。作業が始まってから「〇〇の作業は追加料金です」と言われ、結果的に当初の倍以上の金額になることもあります。必ず、見積もり書に「追加料金が発生する場合」の条件や、その金額まで細かく記載されているかを確認してください。
と申しますのも、私自身も過去に、見積もり段階では安かったのに、作業後に高額な追加料金を請求された経験があります。皆様には、ぜひこのヒントをご自身の暮らしに役立てていただけると嬉しいです。
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貴金属や現金の盗難、貴重品の隠匿: 依頼者の方が見ていない隙に、家財道具の中から貴重品や現金などを盗んだり、発見した高価な品物を報告せずに自分のものにしてしまう悪質な業者もいます。
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不当に安い価格での買い取り: 故人が遺した骨董品や美術品など、価値のあるものを、本来の相場よりもはるかに低い価格で買い叩こうとする業者もいます。専門的な知識のない業者に依頼すると、損をしてしまう可能性があります。
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無許可での処分や不法投棄: 遺族に確認を取らずに、すべてを不用品として処分してしまうケースや、さらに悪質なケースでは、回収した遺品を山などに不法投棄する業者もいます。不法投棄は犯罪ですので、依頼した側が責任を問われることもあります。
信頼できる業者を見つけるために:相見積もりと資格の確認
これらのトラブルを避けるためには、いくつか大切なことがあります。
- 相見積もりを必ず取る: 少なくとも3社以上の業者から見積もりを取り、料金やサービス内容を比較検討することが、不当に高い料金を請求する業者を避けるための基本です。
【ポイント】: 見積もりの際は、必ず「作業内容」「料金」「追加料金の有無」「遺品の供養や処分方法」などを細かく質問し、書面(見積書)で残してもらうようにしましょう。口約束だけでは、後で「言った言わない」のトラブルになりかねません。
と申しますのも、私自身も過去に、口頭での説明が曖昧なまま作業を進めてしまい、後で高額な追加料金を請求された経験があります。皆様には、ぜひこのヒントをご自身の暮らしに役立てていただけると嬉しいです。
- 遺品整理士の資格を持つスタッフがいるか確認する: 「遺品整理士」という資格は、遺品整理に関する専門知識やマナーを習得した人に与えられる民間資格です。このような資格を持つスタッフが在籍している業者や、遺品整理士認定協会が推奨する優良事業所を選ぶと、より信頼性が高いと言えます。
まとめ:実家じまいは計画的に、専門家の力も借りて
遺品整理は、法的・金銭的リスクや親族間のトラブルを避け、円滑に進めるために、計画的な準備と専門家のサポートが不可欠です。
遺品整理を成功させる3つのステップ
親御さんの家を片付けることは、感情的にも、そして現実的にも、多くのことを乗り越えなければならない、大きなプロジェクトです。しかし、今回ご紹介したような、法的・税務的なリスクを理解し、親族間でしっかりと話し合い、信頼できる業者を選ぶというステップを踏むことで、後悔のない、円滑な「実家じまい」を進めることができるはずです。
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最初が肝心:法的なリスクをしっかり確認する: 遺品整理を始める前に、故人の借金がないか調査し、相続放棄を考えている場合は、財産処分とみなされる行為(預貯金の引き出しや家財の売却など)は絶対に避けてください。弁護士などの専門家への相談を最優先しましょう。
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家族で協力し、客観的な視点も取り入れる: 遺品整理を始める前に、作業分担や費用負担、形見分けについて、ご家族全員で話し合い、合意形成を図りましょう。意見が分かれた場合は、家財査定士のような第三者の専門家の意見を参考にすると、冷静な判断がしやすくなります。
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税金や期限を守り、専門家を賢く活用する: 家を売却する際には、相続開始から3年以内という「3,000万円特別控除」の期限を意識し、早めの計画を立てましょう。また、遺品整理業者を選ぶ際には、料金だけでなく、資格の有無や見積もりの詳細さを確認し、信頼できる業者を選ぶことが大切です。
実家を「負動産」ではなく「未来への架け橋」に
これらの専門的な手順を踏むことで、皆さまは故人の家を、単なる「負動産」として次世代に残すのではなく、故人の遺志を大切にしながら、未来へ繋ぐための「架け橋」とすることができるでしょう。



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